
ADO WORLD TOUR 2025
【Hibana】
2024年6月29日、NIPPONGAKUはAdoのワールドツアー「火花」のバルセロナ公演を取材した。
今回が彼女にとって初めてのスペイン公演。そしてその舞台はなんと、バルセロナ最大級の会場・パラウ・サン・ジョルディだった。
22歳の日本人アーティストAdoは、2017年、わずか15歳のときに動画投稿サイト「ニコニコ動画」にボーカロイドのカバーを投稿し始めたことで注目を集めた。
2020年にはユニバーサルミュージックジャパンからメジャーデビュー。以降、『SPY×FAMILY』や『ONE PIECE』など、世界的に人気のアニメ作品の楽曲にも参加している。
この日、朝早くからすでに会場周辺には熱気が漂っていた。
物販は過去の公演でもすぐに売り切れていたという情報が広まっていたため、グッズを確実に手に入れようと並ぶファンが多く見られた。
入場列もどんどん伸びていき、さらにはバルセロナ特有の強烈な暑さ――それはライブ中にAdo本人も言及したほど――がファンたちを容赦なく襲っていた。
席に着いてみると、Adoがこれまで通り姿を明かさずにライブを行うスタイルを貫いていることがわかった。
ステージ中央には、彼女の代名詞ともいえる黒い檻「Ado Box」がすでに設置されており、その背後には巨大なスクリーンがそびえ立っていた。
観客の安全と本人の意思を尊重するため、場内ではアナウンスと掲示を通して「撮影禁止」が繰り返し呼びかけられ、さらには双眼鏡の使用も禁止されていた(これは日本のライブではよくあることだ)。
だが、Adoにとって「姿を見せないこと」はマイナスではない。
彼女の“声”ひとつで、観客の心を鷲掴みにするには十分すぎるのだ。
多くの来場者は公式のライトスティックを持参しており、ただのカジュアルなファンではないことが伺えた。
中には青色の衣装を身にまとい、コスプレをしたり、Adoの刺繍が施された特攻服を着ている人もいた。
ついに20時35分、予定時刻よりわずか5分遅れでライブがスタートした。
Adoを支えるミュージシャンたちが一人ずつステージに登場し、会場からは大きな歓声が上がった。
そしてAdo本人が姿を見せ、そこから約2時間にわたって、会場に集まった人々だけが共有できる特別な世界へと誘われた。
ライブは2020年のデビューシングルで、歌詞が物議を醸した「うっせぇわ」から始まった。
フロアもスタンド席も赤いライトスティックの光で染まり、Adoのライブでの歌声は想像以上にパワフルだった。
若者の怒りや不満をストレートにぶつけるような力強さがあった。
2曲目は「ラッキーブルト」。
観客はライトスティックの色をAdoのイメージカラーである深い青に切り替えた。
Adoはその広い声域を惜しみなく披露し、フロアからは全力の声援が飛んでいた。
続いて披露されたのはファーストアルバムに収録されている「ギラギラ」。前の2曲に比べてポップなメロディーが特徴的だ。
「ギラギラ」は自己認識や個性に関する深いメッセージを含んだ曲で、ここでAdoとバンドはこの夜初めてのブレイクを取った。
会場からは自然と「Ado!Ado!Ado!」というコールが起こり、
Adoは短くも堂々と「I’m Ado!」と自己紹介し、そのまま4曲目の「ショー」へと突入した。
5曲目「クラクラ」(アニメ『SPY×FAMILY』の第2期オープニング)では、Adoが入っていた檻が色とりどりに変化し始め、ペンライトも一斉にピンク色に。会場中からは自然とコールが沸き起こり、観客の熱がさらに高まっていくのが感じられた。
続いて披露されたのはエレクトロな楽曲「レディメイド」。箱に閉じ込められたマネキンのようなAdoの姿と、楽曲の世界観にマッチした映像演出が印象的で、再び会場は真っ赤に染まった。そこから「MIRROR」(印象的なベースラインが光る一曲)、「シャルル」(バルーンのカバー)、そして「エルフ」と立て続けに披露された。
次に披露されたのは、23枚目のシングル「Value」。ステージ上空の照明が、フロアから観客席までをゆっくりと泳ぎまわる魚群のように移動し、まるで海の中にいるような幻想的な空間を作り出していた。繊細で柔らかな歌声から始まり、徐々に力強さを増していくこの曲は、まさにAdoの持つボーカルの魅力を凝縮したような一曲だった。
そこからは『ベイブレードX』のエンディングテーマ「Stay Gold」、そして「RuLe」、「うたかたララバイ」(『ONE PIECE FILM RED』使用曲)へと続く。
気づけば13曲を歌い終え、1時間を超えるステージがすでに展開されていたが、Adoのエネルギーは一切衰えることなく、次の曲でもそれを証明してみせた。
披露されたのは、きくおによる話題作「愛して愛して愛して」のカバー。鋭く胸に刺さるような高音を響かせ、圧倒的な歌唱力で観客の心を震わせた。観客席では多くのファンがペンライトを高く掲げ、全身でAdoのパフォーマンスを受け止めていた。
そしてここで、Adoを支えるバンドメンバーの紹介が行われた。
ベース:金子拓馬
ドラム:森田龍之介
キーボード:岡田治
ギター(兼バンドマスター):髙慶“CO-K”卓史
それぞれが短いソロパートを披露し、そのたびに名前が巨大なスクリーンに映し出された。とはいえ、その実力はすでに14曲を通して私たちにしっかりと伝わっていた。
突然の暗転のあと、真っ赤なペンライトの海と、ステージの花火演出だけが空間を照らす中、「逆光」がスタート。この曲も先に登場した『ONE PIECE FILM RED』の挿入歌のひとつだ。
続いて披露されたのは、DECO*27による楽曲「火花」。今回のツアー名にもなっているこの曲では、照明が再び青に切り替わり、スクリーンには「ひばな」の文字が浮かび上がる。まさにその名の通り、“火花”のような映像が、楽曲の疾走感をさらに引き立てていた。
「Episode X」の後、Adoは観客を驚かせるようなインターミッションを用意していた。
「Hola, buenas noches, soy Ado(こんばんは、アドです)」とスペイン語で挨拶し、その後は英語で「バルセロナ、そしてスペインに来るのは初めてです。すごく暑いけど、パエリアを食べられて嬉しいです」と語り、会場はこの日一番の大きな拍手に包まれた。
その後のMCは日本語に切り替え、「またワールドツアーができることに感謝しています。前回よりももっと多くの人に音楽を届けられて嬉しいです」と語った。
「火花が炎になるように、みんなに幸せになってほしい。たとえ炎に私が焼かれても。みんなの幸せが私の幸せ。ありがとう、また会いましょう。」
“ARE YOU READY TO SING? TO DANCE? SHOW ME EVERYTHING YOU’VE GOT!”
(歌う準備はできてる?踊る準備は?全力を見せて!)とシャウトしながら、最後の曲とされていた「踊」に突入。EDM、ハウス、ダブステップ、トラップ、R&Bなど、さまざまなジャンルを取り入れたこの代表曲は、Adoの音楽性とパフォーマンス力を詰め込んだ一曲となっていた。
その後、Ado Boxは真っ青に染まり、ステージ全体が真っ暗に。そして会場には完全な静寂が訪れた。これはもうアンコールが来るに違いない——そう確信した観客は、「アド!」と名前を叫び、拍手し、足を鳴らし、「¡OTRA!(もう一曲!)」と声を張り上げた。
ちょうど5分が経った頃、アンコール1曲目となる「Rockstar」のイントロが響き渡る。この曲ではギターのサウンドが前面に押し出され、熱いロックセッションが繰り広げられた。そして続いたのは、もはや彼女のライブでは定番ともいえるSiaのカバー「Chandelier」。その圧倒的な表現力と声量に、会場は再び息を呑んだ。
本当の最後の曲に入る前に、Adoは再び私たちに語りかけてくれた。
残念ながら、同時字幕の表示スピードが彼女の言葉に追いつかず、観客の多くはそのメッセージを完全には受け取ることができなかった。
「私は一人でクローゼットの中で歌い始めました。うるさいって、母にいつも怒られてました。でも、そんな私の音楽がスペインにまで届いたこと、本当に嬉しく思います。」
年齢も、性別も、何も関係ない。
「あなたは一人じゃない。私はずっとそばにいます。」
そんな温かい言葉で、Adoは孤独や夢、支えのなさといったテーマを真摯に語った。
そして最後に、希望に満ちたメッセージで締めくくった。
「この美しい景色を一緒に見ましょう。私たちの夢を、火花のように輝かせ続けよう。」
彼女の率直な言葉に、観客は「アド!」と力強く名前をコールして応えた。
Adoは控えめに「ありがとう」と呟き、最後の一曲へと進んでいった。
会場にはたくさんの“ナカマ”が集まり、Palau全体が「新時代(New Genesis)」の大合唱に包まれた。『ONE PIECE FILM RED』の主題歌としても知られるこの曲で、ついにライブはクライマックスを迎える。これまで座っていた人たちも立ち上がり、全力でペンライトを振って盛り上げた。
会場には大きな歓声、拍手、口笛、そしてセットリストの中でも最も豪華な演出の一つである派手な花火が打ち上がった。
バルセロナの情熱に感謝を伝えたAdoは、深く一礼してステージを後にした。
こうして、最初の一秒から最後の瞬間まで、全力で心を捧げたスペインのファンたちにとって、この日は決して忘れられない一日となった。
ADO WORLD TOUR 2025【Hibana】(Palau Sant Jordi)
セトリスト
M01 Usseewa
M02 Lucky Bruto
M03 Gira Gira
M04 Show
M05 Kura Kura
M06 Readymade
M07 MIRROR
M08 Charles (balloon cover)
M09 Elf
M10 Value
M11 Stay Gold (Jax Jones & Ado song)
M12 RuLe
M13 Utakata Lullaby
M14 Aishite Aishite Aishite (Kikuo cover)
M15 Gyakkou
M16 Hibana (DECO*27 cover)
M17 Episode X
M18 Odo
EN1 ROCKSTAR
EN2 Chandelier (Sia cover)
EN3 New Genesis
カメラマン: Tomokazu Tazawa (vanishock)