
2016年に誕生した無料メタルフェス「Zurbarán Rock(スルバラン・ロック)」は、今ではスペインを代表するフェスのひとつに数えられる存在となった。
その成長の理由は、実力派バンドを揃えた幅広いラインナップだけでなく、観客との距離が近く、誰でも楽しめる温かい雰囲気にある。
2025年、3つのステージが設置されたサン・アグスティン公園には、過去最多となる1万6千人以上の観客が集結。
Stratovarius、Myrath、そして圧巻のステージを披露した日本のBRIDEARなど、多彩なアーティストたちによって、ジャンルも国境も飛び越えた“ライブ体験”が繰り広げられた。Zurbarán Rockはただのメタルフェスではない。それ以上のものを届けてくれる場所だ。
このフェスが特別なのは、音楽だけじゃない。
Zurbarán Rockは、子どもから年配のヘヴィメタルファンまで、誰もが安心して参加できるファミリー向けフェスとしても親しまれている。
包み込まれるような温かさ、誰もが“仲間”になれるような空気が、ブルゴスの街に広がっていた。
しかも、会場となるブルゴスは、それだけで訪れる価値がある街。
世界遺産にも登録されているゴシック建築の大聖堂をはじめ、歴史と文化が息づく街並み、美食の数々――音楽の合間に、街を歩くだけで特別な旅になる。
そして2026年、フェスは新たにEl Plantío(エル・プランティオ)へと舞台を移す予定だ。
場所は変わっても、Zurbarán Rockの魂――“メタルを愛するすべての人のための場所”であることは、これからも変わらない。
BRIDEARは、2011年に福岡で結成された女性だけの日本のメタルバンドです。テクニカルなパワーメタルとメロディックなギター、そしてライブでの高いエネルギーが特徴。歌詞は、困難に立ち向かい、限界を超えて前に進むことをテーマにしています。力強さと本物の感情が融合したその音楽は、観客の心を一瞬で掴みます。2025年のZurbarán Rockでの圧巻のラストステージが、それを証明しました。
深夜2時。すでに8時間以上もフェスを楽しんでいる観客たちは、芝生に寝転んでいたり、ビールを片手にしながら、トリを飾る日本のバンドがどんなライブを見せてくれるのか、静かに、でもワクワクしながら待っていた。そして、彼女たちは見せてくれた。とんでもないものを。
BRIDEARのSEが始まると同時に、観客から“wow‑wow‑wow”の声が上がる。それはこの夜、日本のバンドとスペインのオーディエンスをつないだ共通言語になっていった。
最初にステージから声をかけたのはベースのHARU。拍手を煽ると、観客全体が一斉に応えた。何が始まるのか分からない——でも今夜のブルゴスは、身を任せる準備ができていた。
「Still Burning」で一気に温度が上昇。様子見だった観客たちが、一曲目からまるで昔からのファンかのようにヘドバンを始めた。
続く「SCREAM」は、まさに第2ラウンドにふさわしい一撃。
BRIDEARの攻撃的な一面が爆発する。
タイトルに偽りなし。HARUのスクリームは、ハイトーンからディープグロウルまで圧巻のテクニックで、観客の視線を一身に集めた。
その荒々しさとKIMIのクリーンボーカルの調和が、意外な美しさを生み出していた。
まだ2曲目にして、Zurbarán Rockを完全に自分たちの空気に染めていた。

「Braver Words」のギターソロでは、AYUMIとMOEの旋律に合わせて心地よい夜風が会場を吹き抜ける。
KIMIが観客に笑顔で語りかけたのは、スペイン語、英語、そして日本語でのメッセージ。
「¡Gracias! We are BRIDEAR! Are you ready? Arigatou! みんな、行こうかぁ〜?… ¡Vamooos!」
「Road」では、ドラムのNATSUMIが全体を牽引。まるで軍隊のような正確さでリズムを刻み、会場にエネルギーを注ぎ込んでいく。

少ししてAYUMIとMOEが目を合わせ、ギターリフを交差させる。まるでギターソロバトルのような掛け合いに、会場が沸いた。
真夏の7月にもかかわらず、夜中の気温は14度という肌寒さ。でも「The Moment」の疾走感で、BRIDEARが体の芯から温めてくれる。
MOEがセンターに立ち、上からのライトに照らされながら美しいギターソロを披露。

曲は静かに、KIMIの歌声だけを残し、そこに徐々にバンドの音が加わっていく。まるで眠っていた獣が目を覚まし、次の一撃に備えて息を潜めているかのように。
そして、その一撃が「Ghoul」だった。バンドの代表曲が、観客の心を完全に虜にする。
KIMIはいつもよりもさらにアグレッシブなボーカルを披露し、HARUはライブ限定のグロウルを炸裂。AYUMIもコーラスに加わり、5人のエネルギーが一つになった瞬間だった。
HARUはステージの台に乗り、さらに観客に近づいて一緒に盛り上がる。
一息ついたところで、KIMIがマイクを手に取り、少し照れたような笑顔で英語で話し始めた。
「スペインでライブするのは初めてです。今夜こうして皆さんに会えて、本当に嬉しいです。また戻ってきたいと思っています。」
すると観客からはチャンピオンズリーグさながらの「オエーオエオエオエー!」の大合唱。サッカー文化が根付くスペインならではの熱い声援に、メンバーも思わず笑顔になる。
会場とステージのつながりが、一気に深まった瞬間だった。
その余韻の中でKIMIが一言、「次は“IGNITE”です!」
その言葉通り、ステージ上のギターが火を吹き、観客たちはさらに前方へ押し寄せる。
おそらくセットリストの中で最も西洋メタルの影響を感じさせる楽曲で、ヘヴィでストレート、まるで戦の始まりを告げるかのようなドラムが鳴り響く。

そして、真っ赤な照明がそのまま次の曲「Light in the Dark」へと続く。
KIMIは観客にサビを一緒に歌おうと呼びかけた。
誰もが日本語が分かるわけではないのに、“wow‑wow‑wow”の声が会場中に響く。
言葉の壁なんて、とっくにどこかに消えていた。
まるでBRIDEARに新たな6人目のメンバーが加わったようだった——その名は、Zurbarán Rockのオーディエンス。
「LAST SONG!」とKIMIが叫ぶ。「Wing of Hope」観客の多くが手拍子を始め、音と一体になりながら楽曲のスピリットを全身で受け止めていた。
そしてライブのラストは、最初と同じ“wow‑wow‑wow”とギターの響きで締めくくられた。
この夜、ブルゴスの空に響いたあの声と音は、きっと数日後も耳に残っているだろう。

HARU、MOE、AYUMIがピックを次々と客席に投げ、KIMIはスマホで観客の様子を撮影。
日本へと持ち帰る、大切な一瞬を記録するかのように。
照明が落ちると同時に、Mötley Crüeの「Home Sweet Home」がBGMとして流れ始めた。
ヴィンス・ニールのかすれた歌声と哀愁漂うピアノの旋律が、まるで「もう帰る時間だよ」と静かに告げているようだった。
そう、フェスは終わってしまった。でも——この曲が語るように、「帰る場所」は、たしかにある。
そして2026年7月、次のZurbarán Rockの開催とともに、私たちはまた帰ってくるだろう。
“ロック”という名の家へ。
NIPPONGAKUから、Zurbarán Rockのスタッフ全員とスポンサーの皆様に心からお祝いを申し上げます。メタルの炎を絶やさず、勇気ある包容力のあるプログラムで、ますますグローバルな視野を持って挑戦し続けていることに敬意を表します。
📸:陳 楊