これは奇跡だ、「deadmanは死んでいなかった!」
名古屋出身の伝説的なバンドdeadmanが解散から13年の時を経て再びステージに舞い戻って来ると言う知らせを聞いた時我々はこう感じた。
このバンドは母国日本のみならず、ヨーロッパを始めとする海外でも非常に多くのファンの獲得に成功している。2006年、バンド解散と同年オリジナルメンバーでフランスとドイツでライブを決行した。
顔ぶれは変わったが、カリスマ的人気を誇るボーカリスト眞呼が彼等の定番曲を再びステージで披露するために同じくカリスマ的人気を誇るオリジナルメンバーでギタリストのAieとタッグを組む事になるとバンド再始動のアナウンスがあった時はファン達ですら信じられなかった。
今回はサポートメンバーを迎え、関東地方、彼らの地元名古屋、そしてこの日は大都市大阪でツアーを開催した。deadmanは10年のブランクを全く感じさせる事無く、今も変わらぬ彼等の魅力で新たなファンを増やしつつも以前からの熱狂的な支持者を呼び戻した。
ファン達によって選ばれた楽曲のリマスター版が収録されているアルバム「I am here」のリリース告知は皆にとって衝撃であった。
新曲が一曲収録されているという事だけで無く、10年ぶりのアルバムであるからだ!それらの楽曲を生で聴く事が出来るという事実だけで我々は既に感極まっていた。この日のライブは1ヶ月前に名古屋でスタートした新アルバムリリースに伴う「毒と薬と炉の鼠」ツアー最終日であった。開催地に選ばれたのは名古屋、東京、大阪だ。会場となったのは大阪を代表するキャパ700人のライブハウス、梅田Club Quattroだ。メンバーの内何人かが1年前の夏にパフォーマンスを行った場所でもある。
その日、2月11日は祝日という事もあり、梅田の町は人でごった返していた。交差点で信号待ちをしている時には、もう既にこういったイベントでよく見られる黒い服装の人混みが目に入った。V系ファンになったばかりの人にとっては少し奇妙に思えるかも知れないが、会場入り口では抱えきれない程のdeadmanグッズを持った多くのファンがひしめき合って楽しそうにイベントのフライヤーを撮影していた。
開場は午後4時半。パンデミックの影響で、ファン同士の距離を保つ為かほとんどのグループに座席が用意されていた。なので、我々もライブ開始30分前には場所を確保する事にした。幕は既に開いている状態だったので、機材や各メンバーの立ち位置等を見る事が出来た。ステージの丁度中央には、青紫に照らされた3面のアクリル板の様な物が置かれていた。まだ本番が始まっていなかったにも関わらず、この後とんでも無い事が起こる事を既に予感させていた。
午後5時を少し回った頃照明が落ち、ライブの開始を告げた。全員が一斉に立ち上がった。
メンバーが入場し始め、その間メンバー達は落ち着いた様子で各々の立ち位置に進んだ。
最初に姿を現したのはギタリストのAieだった、続いて出て来たのはサポートベーシストkazu (以前は蜉蝣、現在はAieと共にthe god and death starsで活動中)と同じくサポートドラマー晁直(lynch.)だった。眞呼はまだ登場していなかったが、Aieとkazuはそれぞれドラムセットの左右に立ち、晁直と三角のフォーメーションを形成しつつ客席側に背を向けて演奏し始めた。
微笑みを浮かべた3人のパフォーマンスは完全にリンクしており、彼らの間のシンクロが感じられた。音量が上がって行くにつれて彼らの気迫がビリビリと伝わって来た。数分後、梅田Club Quattroのフロアは文字通りそのジャムセッションに共鳴するかの様に震えていた。
遂に眞呼が現れ定番曲「向日葵」が始まる前触れに、少しずつ先程の三角形のフォーメーションを崩して行った。歌っている間、透明の囲いの中の眞呼はまるで本当に檻に閉じ込められている様に落ち着きのない様子だった。
「quo vadis」の間、眞呼は両膝を地面に突き囲いにもたれかかった。自身が閉じ込められている場所から抜け出そうともがいていた。まるで我々の目には見えない何かと戦っている様だった。
全員が眞呼を助けたいと思ってはいたのだが、曲が激しく展開して行く中彼を見守る事しか出来無かった。
少し後、眞呼は遂に囲いを壊して脱出に成功し、客席の我々もしばし一息吐く事が出来た。
一拍置いて、英語で「Welcome!」と我々を彼らのライブに歓迎した。この日まではdeadmanの代表曲を聞いているだけでも充分幸せだったが、2022年に入ってから久しい今再び彼らの生演奏を聞けるなんて更に感動だ。
ステージ上にいる4人の天才が奏でる新アルバム収録の再録音版での新たな楽曲の解釈をまじまじと見る事が出来る絶好の機会だった。
舞台から放たれる迫力は到底カメラで捉えられる物ではない。kazuと晁直がチームにもたらした新たな影響は計り知れない。
幾つかの曲の演奏中、我々はその日大阪に集ったファン達のタイプの多様さを観察していた。年齢層を一切問わないファン層、そして彼ら全員を結び付けていたものこそがdeadmanだ。しかし、年齢層の広さからか各々のライブへの臨み方は非常に変化に富んでいた。リズムに合わせてヘッドバンキングをする者や、V系ファンの間では最早常識となっている振りを踊る者までいた。また、腕を組んで目を閉じ、バンドの演奏に聞き入っている者もいた。
音楽の楽しみ方に決まりなど無いのだ。
眞呼のゴシックな衣装とそれとは対照的なAieの控え目な装いの対比が彼らのステージに更に花を添えていた。どう言う訳か、互いが互いを補っているのだ。Aieがいなければdeadmanは全く異なったものに変容してしまうと言う事を忘れてはならない。耳に残るギターと優しい声色はバンドに欠かせない要素である。
眞呼が物語性のあるパフォーマンスをしている間、Aieはほぼ直立不動だった。激しい物から静かでスローテンポな物、バラードに至るまで様々なタイプの曲を演奏し、更に深みを与えるにはとんでもない集中力が必要に違い無い。
眞呼はこのライブでのセットリストを最大限活かした。歌唱力だけでなく彼の手掛ける歌詞とそのメッセージの深さに驚かされた。バンド名を表す様に、ステージ上をまるで魂の無い人形の様にフラフラと動き回っていた。「deadman」とこれは何か関係しているのだろうか。眞呼は、破られた約束や悲痛な別れなどについての歌詞を通じて我々をその詩的センスで魅了させていた。
もうライブも中盤に差し掛かっていたので、「ドリスからの手紙」や「this day. this rain」など落ち着いた曲が披露され、先程とは打って変わって感傷的な空気に変わった。眞呼はここでも聞く者の心に直接強く訴えかける能力を披露した。道に迷っている様で、まるで目に見えない何かに追われている様にキョロキョロしながら虚空を蹴っていた。
「体温」が始まってすぐ、彼は役に没頭したままスタンドからマイクを取った。まるで行き場も無く助けを求める幼い少年の様に見え、時々それが演技と言う事を忘れさせる程だった。MCは短かかったが、真心が込められていた。眞呼はファンへの親愛の印として我々を「兄弟」と呼んだ。続いて残りのバンドメンバーを紹介して行き、観客達はそれに拍手で応えた。
1番面白かったのはAieが眞呼を紹介し、続いて眞呼が照れながら手を挙げて皆に挨拶した時だった。梅田Club Quattro中が笑った。
deadmanメンバー同士の仲の良さが観客席にも伝わって来て全員が笑顔になり朗らかな空気が広がった。
後はアンコールを残すのみと言うところで、Aieは我々にこんな言葉を贈った。屈託の無い笑顔でメモ帳を取り出し、全てのファンにわざわざ大阪まで足を運んでくれてありがとうと感謝した。このバンド復活ライブツアーの全会場、全日程でチケットをソールドアウト出来た事もお陰様だと語った。
その場にいた全員にとって嬉しいサプライズだったのが、今後のdeadmanのステージ上の活動についての情報が解禁された事だ。メモ帳のページをめくりつつ、Spotify O-EAST (東京)での「[endroll 2006/endroll 2022]」ライブの告知をした。
日付は5月23日、かつてのバンド解散日だ。そのイベントは他に例を見ない「時代を超えた」対バン形式となるという。何故ならオリジナルメンバーのdeadmanと現在のdeadmanの共演が実現するからである。それを聞いた客席側は驚喜に沸き立った。
2021年12月のライブ以降、バンドの黄金期を築いたオリジナルメンバーでの生演奏をもう聞く事はないと思っていたファン達にとってこの知らせは安堵と共に迎えられた。アンコールが終わった途端、deadman面々の顔つきが変わった。
Aie、kazu、晁直の演奏をキッカケに新曲「鐘は鳴る」が披露された。ここまで活気に満ちていたファン達も、今回はジッと演奏に聞き入っていた。この曲は今までのdeadmanの楽曲とは毛色の違う、しかし彼ららしさもある物だった。アップテンポで、サビの間無意識に手を左右へと振ってしまう様な曲だった。
他のあらゆるライブのセットリストにもこの様に全員が楽しめる曲が入っているべきだろう。
ライブの終わりが近付いて来ていた。照明の効果によって梅田Club Quattroは薄暗くなった。「蟻塚」が始まると、メンバー達は深さを増す暗闇の中に消えた。
眞呼はステージの縁へ向けて一歩踏み出した。僅かな光の奥には漆黒の闇が広がっていた。ぼんやり見えたのは彼の輝く目と蛍光色の髪の毛だけだった。
眞呼が歌い始めると、同じく蛍光色の液体が彼の唇から溢れ出し服に付いていた。
それでも尚汚れた手で顔や身体を擦りながらステージ上を彷徨いつつ歌い続けていた。曲の最後に眞呼は今まで見せたことの無い奇妙な面持ちで観客席を見つめながら蛍光色の血を吐き出し、ステージを去って行った。
あまりにもショーに没入していた為、全パフォーマンス終了後からファン達の拍手が始まるまでほんの一瞬だけタイムラグがあった。5月のライブは当然として、今後のdeadmanの活動の展望について考えずにいられない。この日のパフォーマンスを見た後では、彼らの舞台の目撃者になり2000年代から続く独自の世界観をより深く知る機会が早く再び訪れる事を望まずにはいられない。
彼らdeadmanの最新音源「I am here」は既にSpotify と Apple Music で配信中だ。
繰り返すがdeadmanは死んでいなかった。これ以上の喜びは無い。
- (Fatima A.ヨリ)
- (カメラマン:Gin G. Personal Instagram/Photography Instagram)
- (翻訳:T.小澤 )
vistlip ONE MAN LIVE TOUR『META TOXIC』梅田Club Quattro 4/28【ライブレポート】
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