Esprit D’Air ライブレポート(バルセロナ、Razzmatazz 2)
一歩一歩、着実に。
このフレーズは最近インターネットのミームになっているかもしれないが、Esprit D’Air の長く、粘り強い歩みを完璧に表している。マラガやグラナダの小さなアニメイベントで演奏していた初期の頃や、元ボーカリストがバンドを宣伝するためにソロでパフォーマンスしていた日々は、まるで別の時代の出来事のようだ。時は流れ、今や Esprit D’Air は4thアルバム『Aeons』のツアー中で、Kai は伝説的ゴシックロックバンド The Sisters of Mercy の一員でもある。
2010年にロンドンを拠点とする日本人バンドとして結成され、同年マラガで初の海外公演を行ってから、長い年月が経った。その間にラインナップの変更やボーカリストの交代、2013年から2016年までの3年間の活動休止など、多くの困難を経験してきた。しかし、Esprit D’Air は消えることを拒んだ。
Kai がバンドを引き継ぎソロ主導プロジェクトに変えて以来、勢いは止まらなかった。デビューアルバム『Constellations』は2017年のインディペンデント・ミュージック・アワードでベストメタルアルバムを受賞。その後の軌跡は上昇一方で、『Aeons』は2025年にUKロック&メタルチャートで1位を獲得した。この実績がすべてを物語っている。

スペインで Esprit D’Air が知られていることのひとつは、悪運の強さだ。今年4月28日の公演が悪名高い停電で延期になったことも記憶に新しいが、今回は新たな敵が現れた。大規模なクラウドフレアの障害により、インターネットが不安定になり、チケットが読み込めず、ツイッターやウェブサイトも使えない状態だった。Port Marítim を歩いていた Kai は、インスタグラムのストーリーで一部のファンがチケットを読み込めないことを確認しながらも、「今回は何があってもライブを止めない」と決意を見せた。
クラウドフレアの混乱は NIPPONGAKU にも影響した。プレスの確認メールは届かず、連絡手段のメールにもログインできなかった。かすかな希望を持ってインスタグラムでバンドにメッセージを送ったが、返信はなかった。
コンサート開始30分前に、突然 Esprit D’Air から心のこもった謝罪のメッセージが届いた。メッセージを見落としていたこと、そしてクルー不在で再スケジュールされた公演を行っていたため、非常に慌ただしい一日だったことを説明していた。またインスタグラムで、開演が少し遅れることも告知していた。完璧だ。これでギリギリ間に合った。

NIPPONGAKU は2つあるセットリストのうち最初の曲の直前に会場に入り込むことができたが、残念ながらオープニングバンド Ashes of the Crow は見逃してしまった。彼らはサポートを務めただけでなく、Esprit D’Air のドラムキットも提供していた。
Razzmatazz 3 は超満員で、後に正式にソールドアウトだったことが判明する。観客はすでに Esprit D’Air を求めて声を上げていた。20:30、『Machina』(Aeons)のイントロが会場に響き渡り、バンドがステージに現れた。
– SET 1 –
Kai がマイクに向かって叫ぶ。「VAMOS BARCELONA!」
観客は爆発した。ショーの幕開けだ。
最初のフル曲は『Lost Horizon』(Aeonsのリードシングル)。Vincent の力強いドラムが場を支配し、Kai の伸びやかなボーカルが観客をバンド初の音の旅に誘う。反応は圧倒的にポジティブだった。
しかし、Esprit D’Air は不運から逃れられない。Kai と観客はマイクの音量が不安定であることに気付く。プロフェッショナルな Kai は曲中に自ら調整を試み、声を張りながら演奏を続けた。

次の曲『Nebulae』(Oceans)では一時的にマイク問題は落ち着いた。Kai はドラムに合わせてジャンプし、踊り、観客も熱狂的に拍手。だが NIPPONGAKU を含む一部はまだ内心で不安を抱いていた。
3曲目『Grudge』(Constellations)で再び災難が。マイクが完全に故障し、演奏を止めざるを得なかった。Kai は観客に向かって、今年バルセロナで2度目の挑戦であり、今回は何があっても止まらないと強調し、さらに今夜は2セットあることを伝えた。
技術スタッフが問題を修正すると、音楽は力強く復活。『Grudge』は Takeshi の鋭く存在感のあるベースラインから再開し、インダストリアル寄りのパワフルな演奏を届けた。
4曲目の前、Kai はスペイン語が話せないことを詫び、『Aeons』が11月7日にリリースされたことを共有。4月の停電の影響で、この新曲をスペインで披露できるのは初めてだった。

4曲目『Broken Mirror』(Aeons)は、アルバム最新シングル。ヌーメタル風のギターとメランコリックなフックで会場をすぐに盛り上げた。
Kai は 2018年 と 2023年 に来ていた人を尋ね、観客は歓声で応えた。
「そして今?」Kai が叫ぶと、観客は大声で答える。バルセロナはもっと求めていた。
次に『Ocean’s Call』(Oceans)、そしてファン定番曲『Guiding Light』(Constellations)。壮大なピアノと Kai の優しい声に、会場全体が左右に揺れた。
曲後、Kai の表情は真剣になった。
「これは本当に悲しくて、感情のこもった曲です。あまりにも美しくて、歌うたびにいつも泣いてしまいます……。もうこの世にいない大切な人に会いたい、そんな想いを込めた曲です。Takeshi が、とても愛していた自分の猫のことを思いながら書きました。だから、この曲を世界中のすべての猫たちに捧げます。」

ほろ苦い笑みを浮かべ、『Stardust』(Aeons)を演奏。Kai の柔らかい声は Vincent の容赦ないドラムの上で舞い上がった。目に涙を浮かべながら歌い、胸に手を当て、曲を締めくくった。
『羽ばたけ』(Aeons)の冒頭はマイク故障で中断。ケーブルを確認すると問題は解決。多くのバンドなら怒るだろうが、Kai は微笑みながら新曲を続けることを宣言。
髪を揺らしながら、Kai は威厳ある歌声を響かせ、Vincent の力強いリズムが前のバラードと対照をなした。
Esprit D’Air は挑戦に慣れている。小規模会場でも圧倒的なパフォーマンスを見せてきた。『Glaciers』(Oceans)でもマイクが再び故障し、一時演奏を止めた。観客は「GANBARE!」と声をかけ、ギタリスト Yusuke はスペインの好きなもの、タパスやエストレージャまで列挙して場を盛り上げた。

途中止まったものの、『Glaciers』は再開。ピアノとドラムの激しいメロディが Kai をステージ上で回転させ、ジャンプさせた。Takeshi も観客と手を振り合い、ベースでポーズを決めた。
1セット目の最後は『絶望の光』(Aeons)。『Aeons』はヌーメタルとプログレの融合と評され、この曲でもその色を感じさせる。Yusuke のグルーヴィーなギターと Kai のボーカルには2000年代初頭の Korn を思わせる要素があり、観客は熱狂した。
バンドはステージを去り、「バーのある場所で一杯どうぞ」と冗談を言って第一部終了。インタールードでは『Distant Waves』『Hunter(Reprise)』『Starstorm(Shudan Remix)』『光の矢』のリミックスが流れ、ファンはグッズブースでTシャツやレコードを求めていた。
– SET 2 –
『Tempus』(Aeons)のイントロとオープニングでバンドが再登場。Takeshi はスタイリッシュな花柄シャツで登場。ロックだ、Takeshi。
次は『Chronos』(Aeons)、電子的要素と日本風のフレアを融合した高エネルギー曲。Versailles ファンにも魅力的。哀愁漂うブラッシュストローク、控えめな三味線のライン、Yusuke の高速ギター、合唱コーラス、強烈なビート、全てが Esprit D’Air 独自の融合を生む。
『Chronos』の激しさを和らげるため、『Quetzalcoatl』(Aeons)を続ける。魔法的な電子音と Yusuke のループテクスチャーが Kai の歌声を映画的に彩った。
Kai はバルセロナが彼らにとって特別な場所であること、2023年にライブアルバムをここで録音したことを伝えた。

電子音が鳴り始め、13曲目『Shadow of Time』(Aeons)がスタート。Kai は観客にジャンプするよう促し、会場は即座に応えた。
突然 Kai がステージを離れる。観客が驚く前に、元 Ghost メンバーの Vincent が超絶ドラムソロを披露。圧倒的なテクニックを見せつける。
Kai は黒白のシェクター スターゲイザーを手に戻り、さらなる興奮を呼ぶ。
2本目のギターが加わった『Shizuku』(Constellations)は、バンド初期の曲であり、夜の14曲目。オーストラリア人プロデューサー Misstiq による2023年版アレンジで、なぜこの曲が Rock Band 3 & 4 初の日本曲になったかを示す。
観客は曲を熟知しており、熱狂。Takeshi はベースの弦を柱に擦り付け、迫力のある演出。曲が閉じ、Kai が再び「BARCELONA!」と叫ぶ。
静寂が戻ると、Kai はスタッフ、オープニング、会場マネージャー、グッズ担当の Sara まで、今夜を作った全ての人を紹介。

『Reminisce』(Constellations)と『Dead Zone』(Constellations)も披露。後者は The Sisters of Mercy の Ben Christo が参加したデュエットで、2000年代初頭風ギターが効いた甘美な一曲。
夜は終盤に差し掛かる。Kai はまだ2曲残っていることを告げる。観客はため息をつくが、Kai は喜ぶことを約束した。
『Tsunami』(Oceans)、圧倒的ファン定番曲で観客は歌詞を絶叫。
そして最後の予定曲『Leviathan』。NIPPONGAKU の個人的お気に入りで、サビは会場全体が歌い手を掲げる。Yusuke と Takeshi も楽器を高く掲げ、劇的に締めくくる。

観客はまだ欲しがる。ENCORE コールの後、Takeshi はファンから贈られた可愛いクロミの帽子で再登場。
Kai はバルセロナが特別な場所であること、この曲はここで書かれたことを伝え、曲名はスペイン語だと告げる。観客はすぐに『Aire』(Seasons)と当てた。
ジャジーな雰囲気の中、観客もコーラスに参加。柔らかいJ-ROCKとヴィジュアル系の雰囲気が漂い、Janne Da Arc のファンやシーンの穏やかな側面のファンにはたまらない演奏。Kai はクロミ帽子を遊び心で回し、最終的に Yusuke に渡り、耳を揺らして踊った。
最後は『Starstorm』(Constellations)。エネルギーの急激な変化が歓迎される。バンドの代表曲であり、独立レーベル Starstorm Records の名前にもなった。

締めのロックアンセムとして、歓声、ジャンプ、ダンス、純粋なカタルシスを届ける。Kai の最後の言葉:「もう一度チャンスをくれてありがとう。いつも心に残ります。」
22:30。Esprit D’Air の夢のようなメロディ世界での2時間はあっという間に過ぎ、時間が止まったかのようだった。会場は笑顔であふれ、ファンは再びグッズブースへ。私たちは外へ出た。
そう、Esprit D’Air は決して裏切らない。
セトリスト
1st Set:
Machina (Intro)
Lost Horizon
Nebulae
Grudge
Broken Mirror
Ocean’s Call
Guiding Light
Stardust
羽ばたけ
Glaciers
絶望の光
(Interlude)
Distant Waves
The Hunter (Reprise)
Starstorm (Shudan Remix)
光の矢
2nd Set:
Tempus (Intro)
Chronos
Quetzalcoatl
Shadow of Time
Drum Solo
雫
Reminisce
Dead Zone
津波
Leviathan
Encore:
Aire
Starstorm
