NIPPONGAKU は大阪にも支部があるので、読者の皆さんに関西のメタル / V系シーンの中で絶大な影響力を持つバンドの内の一つであるDEVILOOFをご紹介するのは時間の問題だったのかも知れない。
結成当初は”Devil’s Proof”として知られていたDEVILOOFはパフォーマンス面においてV系の要素を強く含んでいるのが魅力のデスコアバンドだ。
前身となった”All must Die”は本格メタルバンドであったが、2015年にDEVILOOFとなってからは、禍々しい装いとデスグロウルからの影響や攻撃的なギターリフなどが特徴的な責めた音楽性から見られる様に”一番激しいV系バンド”をバンドのテーマとして掲げている。
佳祐(Vo.)によると、”DEVILOOF”がバンドとして表現するのは彼ら自身により創られた”魔王や「それ」に対する信仰が絶対に存在しないとは言い切れない”世界なのだそうだ。
我々が想像するよりも遥かに深い世界。
我々が取材を行う事が出来たのはDEVILOOF Oneman Tour「DYSTOPIA RETURNS」の十三GABU公演だ。
大阪に住んでいる人にとって、この箱と聞いて真っ先に思い浮かべるグループは”DEVILOOF”かも知れない。
多くの場合、V系バンドのライブ会場は心斎橋周辺となるからだ。
正方形である事から動き回るのにも適している上、どこからでもステージの様子が良く見えるので、こう言った激しいイベントには最適な会場の内の一つに数えられるだろう。
NIPPONGAKUにはバンドマンのスタッフが在籍しているので、DEVILOOFの音楽的多様性をお伝えする為に、今回のライブレポートでは何曲か彼らの専門的な知見を交えつつ解説して行こうと思う。
開演前、会場内は既に薄暗かったのだが、時計の針が18時をさすとSE、”DYSTOPIA”が流れる中、更に漆黒に包まれた。
血の様に真っ赤な照明とドアが軋む音が会場を”DEVILOOFの世界”へと誘った。
まるで地獄への門が開かれた様に。
バンド名に負けず劣らず悪魔的な開幕だった。
それが照明を用いた演出のお陰で更に没入感を帯びていた。
突然照明が点滅を始め、DEVILOOFの面々が既にステージ上で位置についているのに気付いた。
開幕一曲目に選ばれたのは“Orwellian Society”だった。
ジョージ・オーウェルと彼が提唱した人間社会における”ユートピア / ディストピア”論をこのツアーの幕開けに関連付けたのは巧みとしか言いようが無い。
佳祐は既にイントロから頭がおかしくなるくらい跳びまくれと煽っていた。
この曲の楽器隊のパフォーマンスはその場にいたどのバンドマンにとっても痺れるものだった。
会場後方から見ていると、パームミュートを駆使したギターの重いフレージングと、ツインペダルを用いた会場を揺るがす程激しいドラムのブラストビートに合わせてノンストップで腰から頭を振っているファン達は、まるで狂信者の様だった。
“Libido”が始まると更に十三GABU内の気温が上昇した様に感じられた。
まさに、ディストピアがその場を支配していた…。その場を狂乱の渦で満たすクラシック・パームミュート・スラムとダーティー・ブラストビートのリズムに合わせて、まるで信者達に悪魔崇拝の教義を説く教祖の様に佳祐はデスボイスを放ち、会場中を貫く照明が黒ミサに魅せられヘッドバンキングしているファン達の様子を照らし出していた。
“Rebellion”でサウンドの刺々しさは実際に痛みを伴うくらいに実体を帯び始めた。佳祐のハイトーンなボーカルからは、最新アルバムにおける欧米音楽からの多大な影響が感じられた。
ツインペダルを用いた幹太(Dr.)のドラムがブレイクダウンに突入する前までバンドを引っ張っていた。あまりにも気持ちが昂ったのか愛朔(Gt.)は跪いて演奏し、観客の目を奪っていた。
“Rebellion”が終わると、会場はパステルカラーに塗り替えられた。既に禍々しい照明の色に慣れていた我々にとっては驚きだった。
お陰で、大輝(Ba.)が7弦のフラットレスベースを使っているという事やRay(Gt./Vo.)と愛朔のギターのブランド(ESP、Ethereal)がはっきりと目視出来た。
こう言った詳細を知るのは彼らの音楽を生で楽しむうえで有意義なものだ。
ファン達は最新アルバムの代表曲”Newspeak”が始まると狂喜した。
素晴らしいイントロだった。ギターリフに合わせて奏でられた大輝のベーススラップが”Immolation”で高まっていた緊張を緩和させるのに一役買った。
曲中佳祐が愛朔の隣へ行き、それから何か見逃してはいけない事が起こるのではと思われた所で、突然文字通り何の前触れも無く会場中全ての照明が落ち、尺八と和太鼓の音が聞こえ始めたが「ヨーっ!」と言う歌舞伎風の掛け声と共に中断され、再びメタルな曲調に戻りヘッドバンキングをするファンで埋め尽くされた。
和楽器や歌舞伎と言った純和風の要素を取り入れているメタルバンドはそう多く無い。
この様な前衛的な楽曲のお陰で彼らは現在のシーンで活躍する他のバンドと比べても国際的な知名度を得るに至った。
佳祐が、今まではショーの間叫んだりする事は禁止されていたが、今回はマスクをしている場合に限り声出しするのは問題無いと知らせた。
続いてもう最新アルバムは聞いたか、新曲の感想はどうか尋ねた。
アルバムのコンセプトについてより詳しく説明があった。
「“ディストピア”はユートピアの対極にあります。ご存じでない人の為に言うと、ユートピア(理想郷)とは幸福、愛、平和のみが存在する理想的な世界を指します。なので、その反対のディストピアとは何なのかはもう想像出来ると思います。だからと言って、ディストピアではみんなが理由も無く憎しみ合っていると言う訳ではありません。多くの人が自分にとってのユートピアに住んでいますが、反対にディストピアで暮らす人も大勢います。このアルバムはそんな人達の為に作りました。次の曲は我々にとって非常に深い意味を持っています。こういうタイプの音楽の歌詞を聞き取るのは簡単ではありませんが、是非時間がある時にじっくりと聞き込んで見て下さい。この曲は他人から邪険にされた事がある人の為に考えました…。”Underdog”。このライブでは叫んでも良い!皆さんの大きな声を聞かせて下さい!」
佳祐の後押しするスピーチのお陰か、“Underdog”ではファン達は更に積極的にライブに参加していた。
彼は天性の演説家に違い無い。観客の心を掴む為の言葉選びが完璧だ。
ここにきて”Disclosed Pandora’s Box”でもう一度その音楽的多様性に驚かされた。
オーケストラのサンプリングに合わせて演奏される二対のギターによるオクターブドリフのお陰でこのDEVILOOFのマスターピースの10分間ずっと勢いが衰える事は無かった。
歌詞に耳を澄ましていると、このライブでディストピアに生きるとはどんな事かを検証をしているのだと再認識させられた。古代ギリシャ神話によると、パンドラの箱を開けると言う事はつまりその中に封じ込められた悪き物を世界中に解き放ってしまうと言う事だ。
このアドレナリン再充填の後、ファン達から絶え間無い拍手が贈られる内DEVILOOFが小休止を取る為にステージを去ってからもその空間を高揚感が支配していた。
言わずと知れた“Devil’s Proof”のイントロと共に、鮮烈なショーを続行する為バンドが再びステージに現れた。
佳祐が第二回戦に向けて準備している間待っていてくれてありがとうと言った。
更に、「皆さんも少しでも休めたなら嬉しい。何故なら次の曲は…”ESCAPE”だからだ!」と続けた。
おそらくDEVILOOFの代表曲と言って良いこの曲の演奏が始まった途端、最前列の方にいたファン達は狂喜した。
数秒後には残りの十三GABUの面々にもその輪は広がり、全員がヘッドバンキングの渦に巻き込まれて行った。
サビの間、遂に佳祐のクリーンの歌声を聞く事が出来た。それに加えてステージ中央で繰り広げられたRayと愛朔によるギターバトルが更に”ESCAPE”に華を添え、これだからメタルやV系のライブに通うのは辞められないと思わされた。
このライブ第二回戦はまるでDEVILOOFのこれまでの音楽的変遷を辿る復習の様だった。
佳祐は再び観客達を煽った。
「まさかもう限界ですか…?正直に言って、先日の福岡公演では今日の半分くらいの人しかいなかったけれど、もっと声が出ていましたよ!せっかく地元大阪でライブしているのにガッカリです。本当にこれで限界ですか?次の曲は一緒に歌って欲しい!もう一度チャンスをあげましょう!」
“DESTINATION”サビのコーラスで、Rayのボーカリストとしての圧倒的な技量をマジマジと見せ付けられた。
彼の澄んだ歌声が佳祐の力強い歌声と重なって素晴らしいハーモニーとなっていた。
DEVILOOFにとって、この曲を選んだのは大阪も他の会場に負けていないと証明するのに名案だった。
メロディックなリズムのお陰でファン達も参加しやすくなっていた。
ライブを締め括る為、佳祐はDEVILOOFメンバー一人一人を紹介して行った。
“HERO=MURDERER”が終わるとDEVILOOFはステージを後にした。
ライブはこれにて終了かと思われたが、違った!
時として、幸運の女神は微笑みつつアンコールを贈ってくれる。その日はとてもついていた。少し経つとバンドがステージに舞い戻り、再び我々をディストピアへと誘った。
お別れ代わりに選ばれたのは2016年にリリースされたDEVILOOFのデビュー曲、”RUIN”だ。
ファン達はショーの最後までDEVILOOFに身を委ねていた。間違え無く、その暑い日は満足感で一杯になって帰路に就いた事だろう。
将来またDEVILOOFとコラボ出来る機会があれば光栄の限りだ。
次の音源ではどの様な音楽的革新で我々を驚かせてくれるのか、彼らから益々目が離せない!
セットリスト
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https://open.spotify.com/playlist/7KaiuqcZdGJ9s9Q8gHqWkz?si=CY7q8_MuRtaf0szx8mKjyA&nd=1