公演延期や中止が相次いだ約2年間が終わり、2022年中頃からやっと徐々にパンデミック以前の様な日常が戻りつつある。
それからと言うもの、非常に多くのバンドが周年記念の為や、誰にとっても辛い時期を乗り越えたお祝いと言う名目でライブを行なっている。
今年の初めに開催された摩天楼オペラ結成15周年記念ライブでは、会場となった大手町三井ホールにチケットソールドアウトの貼り紙が掲示され前例を見ない程の盛況となった。
まさにその日に新アルバムのリリースを告知し、たった数週間後には新音源を聴く事が出来るとファン達を驚かせていた…
しかし告知されたのは新アルバムについてだけでは無かった。なんと次は関東を飛び出し、日本全国のファンに彼ら摩天楼オペラの音楽を届けに行く事が決定したのだ。
実に、2019年ツアー”Human Dignity”の第2回公演以来の事である。
今回のツアータイトルに選ばれたのは”15th Anniversary Tour -EMERALD-”だ。3ヶ月間、日本全国で開催される全18公演をノンストップで走り抜ける。各開催都市で2公演ずつ行い、1日目”追憶の摩天楼”ではバンドの定番曲が、2日目の”真実を知っていく物語”(最新アルバムのタイトルと同じ)では3年ぶりの最新アルバムや比較的最近にリリースされた曲から抜粋されたものを中心に披露される。
今回のツアーから正規メンバーとして加入した新ギタリスト、優介~yusuke~からも目が離せない。
今ツアーはバンドにとって、ファンにとって、そして摩天楼オペラをホームである大阪で迎えさせて頂く我々 NIPPONGAKU にとっても新しい事の連続だ。
1日目-追憶の摩天楼-9月3日(土)、レポーターとしてだけでなくプライベートでも今まで数え切れない程足を運んできた関西ビジュアル系の聖地 Osaka Muse にやって来た。
会場に近付くにつれ、今日のライブに駆け付けたファン達らしき人を多く目にした。
多種多様なファン層がいるのはパッと見でも明らかだった。それぞれ違ったバンドとの思い出があるのだろう。
何人かは昔のツアーTシャツを着ており、10年以上に渡ってバンドを応援し続けている事への誇りさえ感じられた。
この日のセットリストは懐かしい曲で一杯だと予め告知されていたので、ファン達の高揚感につられて我々までこっそり今日披露される曲が何か予想し合っていた程だ。
会場に入ってすぐ納得したのだが、大阪での両日程共にチケットソールドアウトと書かれた紙が掲示されていた。
あまりにも満員だったので取材クルー用の場所を確保するのにも一苦労した。
しまいには会場側から”全員一歩ずつ前へ詰める”様にと声が掛かった程だ。ここから更に観客が増える事を意味していた。
Osaka Muse奥には多くのカメラが設置されていた。
ツアー全体を通して満員御礼だったので、オンライン上でもライブの様子を見る事が出来る様にとのバンド側の配慮だ。1曲目はYouTubeにて無料で、ショーの一部始終はプラットフォーム Zaiko で配信されていた。
会場に来る事が出来なかったファン達や後から家でもう一度ライブを見返したい人々の為。
全員が会場内に入るとドアが締め切られ、少し間を置いて灯りが消え幕が開いた。ステージ奥には摩天楼オペラのロゴがぼんやりと見えていた。
突然流れ始めたベートーヴェンの第九が静寂を切り裂き、ファン達の興奮が高まって行った。
メンバー達が次々と登場する中、手拍子の様子からも彼らの高揚感が感じられた。
最後にステージのセンターに現れたのは苑~sono~だった。彼が集中した様子で下を向きマイクを握っている間、会場は再び深い沈黙に包まれた。
一筋の照明がまるで後光の様に彼を照らし、”もう一人の花嫁”を歌い始めた途端透き通るようなクリーンな歌声に鳥肌が立つのを感じた。
楽器隊のパワフルな演奏も始まったのだが、この何処か切ないバラードを皆じっと聞き込んでいた。
恋人に裏切られた女性についての物語。
2010年リリースのメジャーデビューシングルだ。
彩雨~ayame~の繊細なピアノのタッチに合わせて苑~sono~が孤独な結婚式の世界へと我々を誘った。
優介~yusuke~のギターソロも素晴らしいものだった。その日大阪会場にいた全員の心に悲痛な魂の叫びが響いたに違いない。感慨深い幕開けから一転し、何処か恐ろしいメロディーが聞こえ始め次の曲は”Justice”であると仄めかしていた…。
2022/09/03 大阪MUSE
15th Anniversary Tour -EMERALD-
DAY 1 – 追憶の摩天楼ご来場の皆様ありがとうございました。
明日開催のDAY 2も宜しくお願い致します✨✨♪摩天楼オペラ – Justice pic.twitter.com/tJyW2WC7NS
— 摩天楼オペラ Official (@opera_staff) September 3, 2022
観客達はほぼ自動的にと言って良い程つられてヘッドバンキングをし始めていた!
コーラスもさる事ながら、響~hibiki~のハイテンポなパーカッションがサウンドに華を添え、摩天楼オペラのバンドとしての地肩の強さを見せ付けていた。
彼らの作曲者としての実力はまさに天才のそれとしか言いようが無い。クラシックな音色と近年メタルシーンでの流行を高次元で融合させている。
先程の余韻にまだ浸っていたファン達は、響~hibiki~が”Burning Soul”のイントロを思わず目を見張る程の気迫で叩いているのを見て空中に腕を突き上げ、自分達も負けていられないとそれに応えた。スティック2本だけでここまでのエネルギーを発することが出来る人物が存在するとはまったく驚きだ。
“Burning Soul”の曲中”Carry On, Carry On, Keep on Burning Soul”の一節に合わせて拳を突き出すのは最早お約束となっており、その様子はまるで軍隊を見ている様だった。
会場内の熱気は際限なく上昇し続けた。絶頂に達していた燿~yo~はマイクを通して彼の軍隊に全力でかかってこいと指令を出していた。
この激励の後、ファン達は”Mammon Will Not Die”と”致命傷”に全力で臨んだ。特に”致命傷”ではTシャツが汗でびしょびしょになる程激しく動いていた。
観客達ですら疲れ切っているのだから、摩天楼オペラメンバー達の疲労は計り知れない。しかし彼らは水分補給や乱れた衣装を直す為の数分間だけで復活し、フルパワーでパフォーマンスを続行していた。
“Human Dignity”(前アルバムのタイトル)の後、苑~sono~は一度ステージを後にした。残りのメンバー達はその場に留まった。と言う事はこの次に来るのは是非一度は生で聴いて頂きたいインスト曲”SYMPOSION”だと決まっていた。
苑~sono~がステージに戻って来るなり、”Chronos”のイントロをアカペラで歌い始めた。
この日最も盛り上がった曲の一つだと言っても過言では無いだろう。燿~yo~のベースで地面が揺れていた程だ!
そしてそのまま”Invisible Chaos”へと繋がって行った。
苑~sono~が自身の音域で最もハイトーンな声で歌っていると、ファン達全員が彼に向けて腕を開いていた。
図らずして、歌詞にもある様に太陽を探して花を咲かせる向日葵とこの光景が重なった。
苑~sono~の歌唱スキルの高さには感嘆する。恐らくこの夜最高のパフォーマンスであった”New Cinema Paradise”の曲中、不気味なトーンから感傷的なトーンまで見事に歌い分けて皆が息を呑んで聞いていた。
バンドのヘビーな一面に再びクロースアップし、”The World”が披露された。
摩天楼オペラと共に過ごして来た日々を振り返り感慨深くなっていた気分を吹き飛ばすのに最適な選曲だ。
ファン達はここぞとばかりにサイリウムを取り出し、ステージに打ち寄せる光の波が会場を満たした。会場奥から見ていた我々の目にもその様子はまるで蒼や紫、白に彩られた一つの芸術作品の様に見えた。
メンバー達まで「ここから見える景色は下から見るそれよりも遥かに美しい。一生忘れられない」と言う程だった。
摩天楼オペラとファン達の絆はそれからより確固たるものとなった。
ステージの上と下で両者が15年かけて築き上げて来たものを象徴していた。
この人気曲のオンパレードを締め括ったのは日本国内で圧倒的な人気を集める”GLORIA”だった。
未だにサイリウムを手にしたファン達は曲の進行に合わせてステージにエネルギーを送り続けていた。クライマックスは苑~sono~が魅せた超高音だった。
この時がこの日一番胸を打たれた瞬間に違いない。最早この曲は単なるディスコグラフィーの内の一つでなく摩天楼オペラの魂そのものなのかも知れない。
より落ち着いた曲調にアレンジされた“PHOENIX”のエンディングSEと共にメンバー達は皆に別れを告げて去って行った。
ファン達はBGMに合わせて手拍子を始め、曲が徐々にフェードアウトして行くとそれはパンデミック以降常識となったアンコールを要求する為のサインに切り替わった。
数分後、摩天楼オペラがステージに舞い戻り、Osaka Museの面々の顔が照らし出された。様々な感情に溢れたライブ初日がこれからどの様な展開を迎えるのかをワクワクしながら心待ちにしている顔だ。
摩天楼オペラのアンコールでは定番となったカメラの話題が始まった。今回は燿~yo~がDLSRカメラを用いて楽しげな様子で思い思いに語り合うメンバー達の様子をプロさながらに撮影していた。
一枚撮る毎に燿~yo~がメンバー達に見せに行き、その内の何枚かは気に入って貰えていなかった様なのが見ていて愉快だった。
ファン達の間には笑いが絶えず、会場には居心地の良い空気が漂っていた。
今までのバンドのOsaka Museにまつわる思い出を振り返り、間違えなく大阪では一番出演回数が多い会場だという事になった。
どうやら響~hibiki~にとっては今回が初出演だったらしく、会場で最も気に入ったのは広々としたバックステージだと言う。
日本ではまだ感染症拡大予防の観点から会場内での声出しが出来ないのが残念と言う話にもなった。
彩雨~ayame~が冗談混じりに規制が解除されたら最初に演奏したいのはどの曲か尋ね、苑~sono~がほぼ間髪入れずファンとの掛け合いが多い事で知られる”喝采と激情のグロリア”と答えた。
苑~sono~があまりにも自信たっぷりにそう発したので全員が笑い始めた。
ファン達もライブでの声出しがまた出来る日を心待ちにしていると言うのは全く想像に難くない。燿~yo~、彩雨~ayame~、優介~yusuke~が各々の楽器を手にし始めると、ホール側の面々も来たるアンコールに向けて準備をし始めた。
苑~sono~が最後にまだもう少し頑張れるか尋ね、ファン達はそれに応える様に力一杯腕を上げた…。
勿論だと言わんばかりに!
そうしていると、摩天楼オペラ最初期の楽曲の一つ、”alkaloid showcase”の演奏が始まった。
ファン達はリズムに合わせて休む間もなく跳び続けていた。バレンタインデーイベントで見た様に、それぞれが心からその瞬間を楽しんでいるその様子はまるで国外のライブの一コマの様だった。
しかし、サビ前に全員が心を一つにして腕を広げているのを見てやはりここは日本だと再確認した。
曲が終わる直前、苑~sono~はツアー公式グッズのタオルを取る為に後ろに振り向いた。
寸分の狂いも無く振り付けを踊っていたファン達もそれにつられて自分達のタオルを取り出した。苑~sono~は「タオルは良いから今を楽しもう!」と言い、ファン達は”クロスカウンターを狙え”の耳にこびり付くメロディーに合わせて空中を殴り、彼の呼び掛けに応えていた。
“Magnolia”でこの日のセットリストは最後の様だった。ファン達は摩天楼オペラメンバー一人一人にまるで永遠の別れの様に別れを伝えていた。
今日のところはもう終わりかと思っていた矢先、メンバー同士で「もう一曲演る?」と身振り手振りで言い合い始めた。
この日の締め括りに選ばれたのは”Psychic Paradise”だった。
サビ中、ファン達は指でピースマークを作っていた。
曲も終わりに差し掛かったところで響~hibiki~が溢れ出すエネルギーをドラムにぶつけ始め、微笑みを浮かべた苑~sono~まで競い合う様に力強く歌っていた。
客席側でも皆が響~hibiki~のリズムに着いて行こうと必死になり、Osaka Museには心地良い疲労感が漂っていた。
全員が満面の笑みを浮かべつつ、摩天楼オペラの面々はファン達に別れを告げながら去って行った。
今回の大阪公演1日目は今までバンドと共に歩んできたファン達へのラブレターそのものだったのかも知れない。
会場奥に居たにも関わらず、我々NIPPONGAKUチームにもその場を満たすファン達それぞれの感情やこれからも彼らの新しい物語を一緒に創り上げて行きたいという願いがひしひしと伝わって来た。
これからも摩天楼オペラの活躍から目が離せない。だが今のところは大阪公演2日目が楽しみで仕方ない。
- (カメラマン:Gin G. Personal Instagram/Photography Instagram)
- (翻訳:T.小澤 )
【セットリスト】
1.もう一人の花嫁
2.Justice
3.YOU&I
4.BURNING SOUL
5.Mammon Will Not Die
6.致命傷
7.Human Dignity
8.Helios
9.SYMPOSION
10.Chronos
11.Invisible Chaos
12.ニューシネマパラダイス
13.The WORLD
14.GLORIA
En.
15.alkaroid showcase
16.クロスカウンターを狙え
17.マグノリア
18.Psychic Paradise